卵、それは卵かけごはんや目玉焼きなど日本人にとってなじみ深く、料理をいろどり幅を広げる大切な食材のひとつですね。
日本人の卵の消費量は世界第二位なんだとか。
そういえば日本人は歴史的にいつ頃から卵を食べていたのでしょうか?
今回は、日本人と卵の歴史についてご紹介したいと思います。
江戸時代以前の時代 宗教観と卵の関係
日本において、旧石器時代~縄文時代は、木の実や山菜、野獣肉、 魚貝などを食べて暮らしていました。
証拠は見つかってはいませんが、おそらく、この頃から野鳥の卵も見かけたら食べていたものと思われます。
なお、鶏は2000年以上前に朝鮮半島から日本に伝わったといわれています。
さて、日本にはいつの頃からか、自然や自然現象に神を感じ取り、これを崇拝する自然信仰というものが生まれました。
これは「神道」として成立していきます。神道の成立時期については諸説あり、一番早いもので7世紀頃といわれています。
その中において、特定の動物は神の使いとして神聖視されたりもしています。
日本に渡来した鶏は、 夜明けの時を知らせることから、 当時は太陽や光の象徴とみなされていたようだと言われています。
そのため、象徴的存在を食べることは 忌避されていただろうと思われます。
日本の歴史書『古事記』(712年)に有名な「天の岩戸」の話があります。
天岩戸(あまのいわと)に閉じこもった天照大神(あまてらすおおみかみ)が常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)の鳴き声で出てきた、という話ですが、
この常世長鳴鳥とは鶏のことと解釈されており、鶏が神聖視されていたことがわかります。
このように鶏は、主に信仰や儀式に使ったり、鳴き声で夜明けを告げたり、また闘鶏を楽しんだりするための存在でした。
また、神道では、神様に献上する供物(食事)を用意して神前にお供えする神饌(しんせん)という儀式があります。
そして儀式の後にこれを下げて人々が共に食べるという 「直会(なおらい)」という儀式があります。
神道では、神様にお供えした食べ物には神様の力が宿るとされています。
卵がその食材の一つとされていたことは注目すべきことです。
一方で、卵を食べない風習のある地方もあったそうです。
仏教伝来と卵
その後、殺生を禁ずる仏教が日本に伝わると、675年に天武天皇による 「肉食禁止令」が発布され、牛、馬、犬、 猿、鶏を食べることが禁じられました。
聖武天皇も 745年、「向こう3年間、一切の獣を殺してはなら ない」と命じています。
卵については食用禁止の対象とはなっていなかったものの、卵も避けられるようになりま した。
平安時代初期、薬師寺の僧・景戒によっ て書かれた日本最初の仏法説話集「日本霊異記」には、
日頃から鳥の卵を煮て食べていたことで悪い死に方をする報いを受けたという話が書かれています。
仏教思想の浸透とともに、卵を食べることも命を奪う殺生として罰があたるんじゃないかという一種の恐れやはばかりが広がっていったのだと考えられます。
しかしながら、肉食禁止令は江戸時代に至るまで何度も繰り返し発令されています。
それ故実際には肉や卵を食べることが完全には浸透していなかったと考えられます。
ただ、庶民がすすんで卵を食べることが少なかったのは確かなことのようです。
その背景には、日本人独特の宗教観があったと思われます。
つまり、自然のものすべてに神が宿っているという自然信仰・神道的考えと、仏教の殺生禁止の思想とが結びついたものの影響です。
また、政権にも宗教色の色濃い時代、支配層の出した命令と村社会であることを考慮すれば、おおっぴらに食べることがはばかられるのは想像できるでしょう。
江戸時代以降に卵を食べることが一般化
その後長い間日本人はあまり卵を食べたという記録がありませんでしたが、ようやく江戸時代になってから卵を食べることが一般化したのです。
その背景として、南蛮料理が伝来し、カステラや卵料理が知られるようになったことが影響したともいわれています。
おいしく、また栄養豊富な卵に対し徐々に人々の卵忌避の考え方が変わっていったのです。
肉に対し、日本では「薬食い」といって「滋養健康のために、薬としてならば忌避される食べ物を食べることはやむを得ない」という考え方がありました。
また、「たまごは生き物ではないから殺生にならない」という解釈の変化も起こり、卵食の一般化へつながりました。
ただし一般化したとはいえ、庶民にはなかなか手の届かないものだったようです。
また、江戸時代は日本のグルメ開花の時代です。
この時代には100種類を超える卵料理が生まれたといわれています。
明治時代の卵信仰
明治維新以降、開国により欧米列強の進んだ文化に接した当時の日本人は、その国力や技術、体格の差に大いに驚き深刻に焦りを覚えたといわれています。
「欧米列強に大きく後れを取った原因の一つは食べ物の差にある」と認識し、そこから肉食に対する強い信仰が生まれました。
卵についても「優れた栄養食品」として認め、 肉食信仰に次ぐ扱いであったのです。
大正~昭和時代 日本の養鶏が本格的に始まる
日本の養鶏は大正時代に本格的に始まりました。
それにより卵が比較的安価で手に入りやすくなってきたことで、卵が庶民の味として普及しはじめたのです。
とはいえ、今の時代のように1家庭において1人1個ではなく、親子で 1個の卵をわけあってご飯にかける、というような状況だったそうです。
昭和~平成時代 安価な卵の大量生産へ
バタリーケージや完全配合飼料の導入などの革新により安価な卵の大量生産が可能となっていきました。
それにより日本人一人当たりの年間鶏卵消費量は約330個(平成30年)と、たくさん卵を食べられるようになったのです。
また、健康や食分野の研究が進むことで、特定栄養価を強化した卵なども生まれています。
いかがでしょうか。
今の時代、いろんな料理やお菓子に卵は欠かせない存在となっている卵ですが、日本人と卵の間にもいろいろ奥深い歴史があったのですね。
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